祇園の地に香ばしい煙がたゆたう
火を熾し食材を炙るという、シンプルでありながら奥深く、今なお進化の途上にある炭火焼き料理に「酔鯨」はどれほど寄り添えるのか。そんな疑問を携えて京都の名店を訪れました。所在は祇園のメインストリート・花見小路。通りに敷かれた石畳と軒を連ねる京町家がそこはかとない風情をかもし出し、訪れる人々は艶やかな着物姿でしゃなりしゃなりと行き交う舞妓さんたちにうっとりと心を奪われる、いわゆる“京都らしさ”を十二分に堪能できるスポットです。柔和な笑顔が印象的な店主の山本典央さんが営むその名店は「炭火割烹 いふき」。カウンターが中心の寛げる店内は、およそ観光地らしからぬ穏やかな静寂に包まれています。 席につき乾杯を済ませて料理を待つお客様は、カウンター越しの焼き場から聞こえてくるパチパチと炭火が爆ぜる心地良い音に耳を澄ませ、香ばしさをまとった煙がゆらゆらと漂えば誰も彼もが気もそぞろ。そしていざ供される逸品の数々は視覚、聴覚、嗅覚を刺激されて高まる一方の期待値を、実に軽々と飛び越えていきます。
店名の「いふき」とはすなわち、息を吹きかける。食材に、調理に、空間づくりに、ほんの少しのひと手間を加えて、訪れるすべての方に心豊かな時間を過ごしていただきたいと、おもてなしの想いが込められています。「炭火割烹」というジャンルについては「炭火により、香りと味わいが一段と深まります」と山本さん。続けて、炭火焼きの可能性をこう話してくれました。
「下処理、味付け、焼き加減をアレンジすることで、食材に秘められた新しい魅力を引き出すことができるのも炭火焼きならではだと感じています」築地や祇園の老舗で修業を積み、「焼き」の真髄を学ぶべく遠くスペインにまで足を運んだこともあるという山本さんにとって、先達の教えを基盤に自らの発想で創意工夫を繰り返すことは、料理人で在り続けるための前提であり矜持です。
このように、あくまで求道者然とした山本さんが理想に描く料理とお酒のマリアージュとはどのようなものなのか。その答えを求めて選んだ1本は、SUIGEI HIGH END COLLECTION《象》です。すっきりとキレのある淡麗辛口を自負するこの1本を口に含んだ印象を、山本さんは次のように言葉にします。
「純粋な甘みと奥行きのある旨みのバランスが非常に優れていると感じました。この味わいに合わせるのであれば、野菜が本来持つ苦みや調理の過程で生じるしっとりとした舌触りを押し出すことが、料理とお酒の双方を高めることにつながると思います」
山菜の苦みが甘みと旨みを見事に引き出す
焼き場に立ち、無駄のない流麗な動きで淡々と腕を振るう山本さんが《象》に合わせて仕上げた料理は、アカザエビを主役に、揚げたエビイモ、ペーストしたジャガイモなどを層にした一皿でした。タラの芽、フキノトウといった山菜類を散りばめ、花穂紫蘇の彩りがほど良い差し色の役割を果たしています。ソースには黒酢とアカザエビの味噌が用いられていました。黒酢の酸味とエビの旨みが織りなすふくよかなハーモニーが、この上なく心を満たしてくれる逸品です。
アカザエビは甘みが濃厚で、かつ、ねっとりとした旨みが特徴的です。伊勢エビに並ぶとも言われるこの高級食材と、山菜の苦み、ペーストにしたジャガイモのコクは見事にマッチ。それぞれの食材が口中で渾然と溶け合い、咀嚼して喉を通すまでのその時間は、まさに至福のひとときと言えるでしょう。
その余韻を存分に楽しんだのち《象》を流し込めば、キレの良い酸味がなお一層清々しく感じられ、わずかな時間を経て口溶けはほのかな甘みへと。変化の楽しさがどこから訪れるのかとしばらく逡巡してのち、タラの芽やフキノトウの苦みが、マリアージュによる甘みと旨みを増幅させる呼び水になっていたのだと、気づかされます。
和洋の垣根を越えて 極上の空間と時間を演出
料理の盛り付けに山本さんが選んだのは、万歴赤絵の器でした。明の時代の中国で多くつくられたという万歴赤絵は、白磁に映える色鮮やかなデザインが特徴的で、日本では茶道具として重宝されてきた歴史があります。
山本さんが所有するこの器は現代作家の手によるもの。硝子戸棚に陳列されたアンティークな食器類もお客様にとっての楽しみの一つで、料理とはただ味わうためにあるものではなく、空間と器、そしておもてなしの心が織りなす芸術であるということをつくづく思い知らされます。
山本さんはソムリエの資格も持ち合わせているため、ワインのラインナップも飛び切りの銘柄がずらりと用意されています。料理はあくまで懐石をベースとしながらも、ときに日本酒、ときにワインと、和洋にしばられないフリースタイルなマリアージュにお客様は感嘆しきり。多様な変化に富んだ贅沢な時間を、心ゆくまで堪能することができます。
シンプルかつ、ぶれない矜持で「炭火」にこだわり続けたい
食材、調理、そして空間、器と複合的な視野で「炭火割烹」を追求し続ける山本さんは、炭へのこだわりもやはり相当なもの。焼き場には、選び抜いた土佐備長炭が煌々と輝きを放っています。火力が強く持続性に優れ、不純物を極限まで取り除いているこの炭は、食材の香りを一層引き立てる「いふき」に欠かせない名脇役です。
「食材の水分や脂分が炭に落ち、じゅわっと煙が立ちのぼるその瞬間は、思い描く仕上がりが近づいていると手ごたえを感じる瞬間でもあります」
こう山本さんは話しながら「炭火における煙は薫香の役割を果たします。鍋で煮る、フライパンで焼くといった工程では表現しきれない香りをまとった料理を、最高の状態でお客様に提供できること。その喜びが炭火を扱う料理人としての一番のモチベーションなのかもしれません」と、続けます。料理人としての自身のアイデンティティがどこにあるのか。決してぶれることのない答えが、山本さんの中には厳然と確立されていました。
食材のポテンシャルを最大限に引き出すための下拵えに心を砕き、いざ焼き場に立てば、神経を張り巡らせて炭の熾り具合を見極める。一つひとつの食材の焼き加減に集中して、ときには大胆に、躊躇することなく食材を炎に包み、これ以上ないタイミングを見計らってお客様にお出しする。一瞬一瞬に全力を傾ける毎日が、山本さんの日常です。
そんな日々を過ごす山本さんに、料理人として最も心がけていることをお聞きしてみると、「手の込んだ難しいものをつくっているという認識はありません。あたたかい料理を、一番美味しい状態で味わっていただきたい。突き詰めればそれだけのことかもしれません」と、ごくシンプルな答えが返ってきました。
歴史ある京町屋を改装したシックな趣きのある店内でお客様との穏やかな会話を楽しみながら、山本さんは、伝統の美と自身の独創性を、今日も明日も追い続けるのでしょう。
店主 山本典央さん
1972年、京都・舞鶴生まれ。物を作りだすことが好きでおいしいものを食べたいという思いから料理人を志し、築地「河庄双園」祇園「あじ花」などで修業。その後、2005年に独立。先斗町に「炭火割烹 いふき」をオープンさせる。斬新な炭火割烹が評判を呼び、京都一予約の取りにくい店との呼び声も。2011年、祇園に店を移転させる。
sumibi kappo ifuki
炭火割烹 いふき
〒605-0074京都府京都市東山区祇園町南側570-8
電話:075-525-6665
営業時間:17:00〜22:00(L.O.20:00)
定休日:火曜日
酔鯨 純米大吟醸 象-Sho-
食事の時間をさらに美味しくする日本酒
口にした瞬間、その料理と共鳴する食中酒。酔鯨は、そんな酒造りを目指しています。和食はもちろんのことイタリアンやフレンチに至るまで、どんな料理にも合わせやすく、食欲という本能的な感情をさらに引き立てる日本酒。それが『純米大吟醸 象 〜sho〜』。酒造好適米「八反錦」ならではの上品なお米の香りや、熊本酵母由来のフレッシュなバナナを思わせる穏やかな香りを堪能でき、口に含むと、綺麗で爽やか、そしてクリアな印象が際立ちます。辛口ながらほんのり感じる甘み、優しさを感じる酸がとても良くバランスが取れており、酔鯨らしいキレの良いあと口と合わせて、お酒に上品さをもたらしている最も酔鯨のスタイルを感じる上質な純米大吟醸酒です。さまざまな食事のテーブルシーンで、この日本酒はいつも一緒に楽しむことができる『マリアージュ奏る、淡麗辛口』。世界の食中酒を掲げる酔鯨のすっきりとしたキレのある味わいをお料理と共にお楽しみください。
PAIRING
酔鯨 HIGHEND COLLECTION 純米大吟醸 象Sho
使用米 / 八反錦(広島県産)
精米歩合 / 40%
内容量/720ml
価格/5,500円(税込)
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