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Vo.5 【京料理 木乃婦】未来を模索する日本料理の探究者




今日の伝統は変化を求める意欲の賜物


 京都が日本の首都に定められたのは、およそ千二百年平安時代。それから鎌倉時代を経て室町時代へと、彼の地は千年もの永きに渡って隆盛を極め、その間に花開いた文化は、現代においても確かに息づいています。

 ただ、歴史の担い手たちは先人たちが築きあげた在りし日の伝統を頑なに守ることで継承してきた、というわけでは決してありません。例えば茶器の世界では、千利休が見出した「わびの美」に古田織部が作家性と創作性を盛り込むことで、新たなムーブメントが生み出されました。演芸においては出雲阿国が格式ばった能楽にエンターテイメント性を取り入れ、歌舞伎という新ジャンルを創始。大衆に広く求められる娯楽として発展し、今日では日本が世界に誇る伝統芸能としての地位を確立しています。

 トレンドと技術はいつの世にも変化をもたらし、変化はやがて定番化して、また新たな変化を起こす呼び水となる。伝統や文化がこのように進化してきたことは、これまでの歴史が物語る一つの真実と言えるでしょう。

 食の世界も同様です。今回、訪れたのは京都の中心地・洛中に暖簾を掲げる一九三五年創業の老舗「京料理 木乃婦」。三代目当主の高橋拓児さんは、フカヒレを主役にした土鍋料理や、フォン、ブイヨンといった西洋料理の要素を加えたコース料理など、日本食の新たな可能性にチャレンジし続けています。







辛みと旨みが重なり合い、互いのポテンシャルを引き出す


 店主の高橋さんに料理とのマッチングをお願いするべく選んだ一本は、酔鯨のフラッグシップとも言える純米大吟醸、SUIGEI HIGH END COLLECTION《万》でした。

 グラスを傾け口中に転がし、高橋さんは一言。「辛みが際立ちますね」と、印象を言葉にします。続けて「華やかな香りの広がりが感じられました。苦みや渋みがまったくなく、食中酒としてだけの飲み方に限定するのは少しもったいないかもしれません。単体でも十分に堪能できるポテンシャルがあると思います」とのこと。食材と調理を思い描く中で、高橋さんの頭には「お酒としての辛みと料理としての辛みを重ねることで面白くなる」と、閃きがありました。生姜がほど良いアクセントになる。そんな仕上がりのイメージが浮かんだそうです。

 提供されたのは、穴子と海老芋を炊き合わせた一品です。主役は炭火焼きした穴子と炊いた海老芋。そしてからすみ。おかきを砕いて衣にしてこれらを揚げ、あんかけでとろみを加えています。あしらわれた柚子が、ほんのりと爽やかな香りを感じさせてくれました。だしを利かせたあんかけには大根おろしと生姜が適量、混ぜ込まれており、それぞれの辛みが旨みを増幅させる引き立て役を演じています。

 からすみにも仕掛けがあります。「乾燥させたからすみにアルコール度数七%程度の日本酒をしみ込ませて、やわらかくむっちりとした食感に仕立てました。食べやすさだけではなく、熟成させて旨み成分をより引き出すための工夫です」と、高橋さんはこだわりを話してくださいました。

 穴子の旨み、海老芋のなめらかな舌触り、からすみの濃厚な味わいに、パリッとした衣とあんかけのとろみが織りなす食感のギャップ、さらには大根と生姜の後を引く辛みが代わる代わる訪れるこの一品は、どこか賑やかな荒々しささえ感じさせます。

 その余韻にしばらくひたり、おもむろに《万》を流し込めば、競い合うように旨みと辛みが上書きされ、さらに一口、さらに一献と心地良い忙しさに追われることに。旨みと辛みはやがて一つに溶け合い、気がつけば料理が盛られた楽焼の器も《万》を注いだグラスも空になる、至福の時が過ぎていました。






経験と化学的根拠を拠り所に可能性を追求


 「京料理 木乃婦」はお客様を迎え入れる空間をすべて個室とし、窓から眺める中庭が四季折々の風情をかもし出します。掘りごたつの部屋も用意されているため、畳に腰をおろすことに慣れていない外国人観光客や膝を折り曲げた姿勢を負担に感じる高齢者のお客様も、居心地よく食事を楽しむことができます。

 食事を提供する立場として高橋さんが考えることは、あくまで“おもてなしファースト”。日本酒と和食の相性に関しても「純米大吟醸特有の芳醇なフルーツ香は、時として洋食がよりマッチすると考えないでもありません。固定観念にしばられた選択肢に固執するのではなく、柔軟な発想で新しい和食の可能性を追求していきたいと常々、心掛けています」と語ります。

 和食における日本酒とは。あるいは日本酒のための和食とは。相互の関係性を突き詰めることは、高橋さんにとって料理人としてのライフワークのようなものかもしれません。利き酒師とシニアソムリエの資格を取得するなど、言うなれば専門外の分野でも研鑽を積み、身につけた知見を生かしながら、出汁の良し悪しを判断する際もまるでテイスティングをするように鼻と舌を利かせます。「アルコール類をテイスティングする際は、一杯目と二杯目以降で、舌の表面にある味蕾の受容体に変化があらわれることを経験で学びました。出汁の仕上がりを確かめるにあたっても受容体の変化は同様で、判断の迷いとなることがあります。また、出汁そのものをテイスティングするケースと、具材と合わせて出汁をテイスティングするケースとで、判断材料が異なることも少なくありません」自身の経験だけを絶対の正解とするのではなく、食材の構成成分から人体の仕組みに至るまで、科学的な根拠に基づいた分析手法も高橋さんは積極的に取り入れています。



料理界の未来を見すえるその目は、働き手にも注がれていた


このような高橋さんの未来志向のスタンスは、何も料理やお酒だけに限った話ではありません。料理人たちの働き方にも、しっかりと目が向けられていました。

 高橋さんは、従業員の体調面をデータ化して管理するシステムの導入を以前から検討しており、そのシステムにメンタル面の不調も「見える化」するシステムも組み込みたいと考えているとか。業界の在り方を共に考えていこうと、つながりのある料理人たちとも積極的に議論を交わしながら、持続可能かつ発展的な未来を現在進行形で模索し続けています。「料理の世界で働き方改革を実現するためには、当事者たちだけでは、正直なところ力不足は否めません。行政機関との連携も視野に入れながら、試行錯誤を続けたいと思います」現状の課題を十分に自覚した上で、高橋さんは自身を育ててくれたこの業界の未来を真剣に憂い、同時に希望を抱いています。

 このような取り組みが、いつか料理の世界の新たな伝統と認識される日は、そう遠くないのかもしれません。







当主 高橋拓児さん


1968年生まれ。「木乃婦」三代目主人。立命館大学卒業後、「東京吉兆」にて湯木貞一氏に直接指導を受け、5年ののち「木乃婦」に戻って祖父、父に師事する。京料理の海外普及に尽力し、今の目標は「京料理を世界の家庭料理に」。だしを効かせた離乳食の開発、NHK「きょうの料理」講師など幅広く活躍する。著書に『和食の道』(IBCパブリッシング)等。ソムリエ、利き酒師。現在、京都料理芽生会会長。




Kinobu

京料理 木乃婦

〒600-8445 京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町416

電話:075-352-0001

営業時間:【昼の部】12:00~15:00(L.O.13:30)

     【夜の部】 18:00~21:30(L.O.19:30)

定休日:不定休






酔鯨 純米大吟醸 万-Mann-


「食中酒」の魅力を最大限に表現した味わい


酒造好適米最高品質の兵庫県特A地区の山田錦。その米だけを使用して酔鯨の醸造技術で醸した『純米大吟醸 万〜mann〜』。その香りや味わいは、最高級な酔鯨の純米大吟醸にふさわしい芳醇で爽やかなキレとハーモニーを生み出し、大人のテーブルをより華やかに満たしていきます。黄金色に広がる収穫時期の米の大地からインスピレーションを受けた金色のwhale tail マーク。その黄金色のパッケージデザインには、酔鯨の最高級酒を表すフラッグシップの日本酒への想いが宿っています。食中酒として完璧なバランスを酔鯨の技術で追求した、これこそが酔鯨という純米大吟醸であり、それは最高級の山田錦を最大限に表現した『ここに極まる、金色(こんじき)の大地』。

酔鯨の酒づくりに対するグリット感を込めた上質な香味をお楽しみください。



PAIRING

酔鯨 HIGHEND COLLECTION 純米大吟醸 万-Mann-  

使用米 / 山田錦(兵庫県産)

精米歩合 / 30%

内容量/720ml

価格/11,000円(税込)


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