閑静な住宅地に佇む数寄屋造りの一軒家
兵庫県西宮市内にある甲子園、昭和園、甲風園、甲東園、甲陽園、苦楽園、香櫨園の7つの地域は、関西を代表する高級住宅街として知られています。「西宮七園」と総称されるこれらの地域は、大正から昭和初期にかけて大規模な土地開発が行われたのですが、中でも甲陽園は、温泉、遊園地、植物園といったレジャー施設に加えて劇場と映画の撮影所などもあったことから、料理旅館が多く軒を連ねていたそうです。
現在の甲陽園は、教育環境も整った閑静な住宅エリア。この地で2002年より営業を続ける「日本料理 子孫」は、かつての土地の歴史を今に受け継ぐ和の名店です。3代続いた料理旅館を改装したという建物の外観は、風情ある趣きをかもし出す数寄屋造りの一軒家。杉苔や笹垣が四季折々の表情を見せてくれる中庭は、隅々まで丁寧に手入れされています。日々の喧騒から離れゆったりと流れる時間の中で、心尽くしの和の逸品をお客様に提供するのは、店主の藤原研一さん。要となる出汁に使う昆布は、火入れせずに前日から時間をしっかりかけて旨味がしみ出るのを待ち、鰹節は血合いのないものを厳選して一切の雑味なく丹念に仕上げます。
食材は地場の野菜や魚介類をふんだんに取り入れ、熟練の技術で見目麗しく。盛り付けの器やお客様が料理を楽しむ空間はもちろんのこと、お客様からのご要望をお聞きし、会話を楽しむ一瞬一瞬の所作にも気を配るなど、皿の上だけに留まらない“おもてなしの美学”を、藤原さんは貫き続けています。
吟醸香を引き立たせる、食材の“組み合わせの妙”
和食と日本酒。数多の酒造と料理人が向きあう普遍のテーマに対して、和の王道をひた走る藤原さんはどのような答えを導き出すのか。期待を胸にSUIGEI HIGH END COLLECTION 純米大吟醸《万》を携えて、「子孫」を訪れました。口に含んだ印象を藤原さんはこう話します。「日本酒単体としての美味しさは申し分ありません。華やかな吟醸香が感じられる、実にまろやかな飲み口だと思います」
続けて「このような味わいに寄りそった料理を仕上げるのであれば、少しのアクセントが求められそうな気がします」と、閃きの一端を言葉にしていました。板場から戻った藤原さんが運んでくださった一皿は、伊勢海老と酒盗のお造りです。
さっと軽く油にくぐらせた伊勢海老は身をふわりと開き、表面には舌触りよくなめらかに裏漉しされた酒盗を盛り付け。仕上げには薬味として浅葱がほどこされています。伊勢海老のふくよかな甘味、そして熟成された酒盗特有の香気と塩気のバランスはこれ以上なく絶妙で、口当たりはどこまでも優しく。それでいてしっかりとした食べごたえがあり、浅葱の慎ましくも爽やかな香りが口一杯に澄み渡ります。
素材それぞれのポテンシャルと組み合わせの妙をひとしきり堪能した後、良く冷やされた《万》を流し込めば、酵母由来の吟醸香が際立つと共に、伊勢海老と酒盗が一体となった旨味の輪郭は鮮明さを増すばかりです。クリアな酸味が実に心地よく、交互に味わうほどさらなる高みへと導いてくれる。そんな至高のマッチングが目の前で実現されていました。
茶の湯から続く日本料理の精神性
懐石料理の「懐石」とは、空腹をしのぐために、懐に温めた石をしのばせること。懐石料理は茶の湯の発展に伴って誕生した料理スタイルであり、お茶をよりおいしくいただくために空腹を軽く満たすことが本来の目的とされています。安土桃山時代に千利休が茶の湯における「わびの美」を提唱し、その過程における懐石料理は基本的に質素を旨としています。
一汁三菜のバリエーションは豪勢さに偏るのではなく「足るを知る」ことが肝要。料理を通じて季節を感じていただく、おもてなしの心を味わっていただくといったことが何より大切にされてきました。このような精神性は、日本料理の神髄と言えるかもしれません。
「その時々の節句を大切にしながら、料理を通じて歳月の移り変わりを感じていただきたいといつも心掛けています」料理人としての姿勢をこう話す藤原さんの話しぶりからも、「懐石」の思想は確かに感じられました。
日本料理に宿るこのような精神性は、今や海外の人々をも魅了しています。その傾向は和食がユネスコの無形文化遺産に登録されて以来、特に顕著になっており、単純な「食」という枠組みを超えた日本料理の世界について熱心に学ぼうとする北米、ヨーロッパ、アジア圏からの旅行客は、「子孫」においても後を絶たないとか。日本酒の銘柄や産地ごとの特徴、食材との組み合わせなどに一見識を持つお客様も少なくありません。
日本料理と日本酒が世界に広がる現状を、藤原さんは大いに歓迎しています。言葉の壁を越え、さらには歴史と文化の壁を越え、盛り付け一つ、味わい一つで心が通じ合う。そんな瞬間は「料理人冥利に尽きます」とのこと。「日本の自然の素晴らしさや土地で紡がれてきた伝統、または人の営みなどを食の分野から発信し、相互理解を促進する一助を担いたいと思っています」
料理人としての使命感をこう話す藤原さんの表情は、明るい希望に満ちていました。
食を越え土地を越え、おもてなしはどこまでも
素焼きの器にかすりの金箔。提供された伊勢海老と酒盗のお造りは、伊勢海老の色づきの良い紅色が映えるよう、器にも特別の趣向が凝らされていました。中庭は、草木の育ち具合に違和感がないか、花はどのように咲き、お客様からどう見えるかと毎日、丹念に目配りをし、従業員の皆さんで丹念な手入れが行われています。
旬の食材選びに妥協を見せず培った技術を惜しみなく注ぎ込み、細心の注意を払ってその情熱を器に盛り込むことは、藤原さんにとって前提に過ぎません。茶の湯の根底にある「一期一会」の考え方に基づき、あらゆる視点から今日のお客様のために「誠心誠意」を尽くすことこそが、藤原さんの矜持です。
世の中がどのように移り変わり、どれだけ暗く落ち込んだとしても、料理を通じて自ら明かりを灯し、その光は世界中の人々を通じて少しずつでも輝きを増してゆく。藤原さんはそう強く信じています。
奇をてらうことのない王道の日本料理。「またいらしてください」という素朴な言葉。料理の力、伝統の力で世界をより良いものにできると確固たる信念を持ちながら、飾らず驕らず、謙虚な自然体を決して崩すことなく、藤原さんは、これからもいつものように板場に立ち、お客様をもてなし続けます。
店主 藤原研一さん
1967年、兵庫県出身。【日本料理 子孫】店主。甲陽園で実家が料理旅館を営んでおり、料理に勤しむ父の姿を見て育つ。高校卒業後、日本屈指の料理店、滋賀【招福楼】で修業を開始。当主である中村氏の元で日本料理の精神と技を学び、長年研鑽を積む。2002 年、甲陽園に戻り、閉店した料理旅館の跡地に今の店を創業。総合的な文化としての日本料理を供し、ミシュラン3 つ星獲得店に輝くなど、国内外のゲストを魅了する。
Komago
日本料理 子孫
〒662-0015 兵庫県西宮市甲陽園本庄町5-21
電話:0798-71-1116
営業時間:【昼】12:00 ~ 15:00(L.O.13:30)
【夜】 17:00 ~ 22:00
定休日:木曜日
酔鯨 純米大吟醸 万-Mann-
「食中酒」の魅力を最大限に表現した味わい
酒造好適米最高品質の兵庫県特A地区の山田錦。その米だけを使用して酔鯨の醸造技術で醸した『純米大吟醸 万〜mann〜』。その香りや味わいは、最高級な酔鯨の純米大吟醸にふさわしい芳醇で爽やかなキレとハーモニーを生み出し、大人のテーブルをより華やかに満たしていきます。黄金色に広がる収穫時期の米の大地からインスピレーションを受けた金色のwhale tail マーク。その黄金色のパッケージデザインには、酔鯨の最高級酒を表すフラッグシップの日本酒への想いが宿っています。食中酒として完璧なバランスを酔鯨の技術で追求した、これこそが酔鯨という純米大吟醸であり、それは最高級の山田錦を最大限に表現した『ここに極まる、金色(こんじき)の大地』。
酔鯨の酒づくりに対するグリット感を込めた上質な香味をお楽しみください。
PAIRING
酔鯨 HIGHEND COLLECTION 純米大吟醸 万-Mann-
使用米 / 山田錦(兵庫県産)
精米歩合 / 30%
内容量/720ml
価格/11,000円(税込)
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